「be there」は27年の活動の根元に近い部分を表す表現で、重要な概念

2023.05.27

-このインタビューは「BUMP OF CHICKEN TOUR 2023 be there」最終日である5月28日に公開されるアプリ「be there」のオリジナルコンテンツとして掲載されます。 はじめに、この「be there」というツアータイトルとアプリ名、アプリ自体に込めた思いについて、教えてください。

藤原基央(Vo, G)

アプリは最初はスタッフから提案をもらって、そのプレゼンテーションをメンバー4人で受けるところから始まったんですけど、その時の僕らの反応としては8割が「すげー」みたいな感じで。   「なるほど、こんなことが出来るんだ」とか「え?そんな事がやれる可能性もあるの?」みたいな「すげー」と「期待」が詰まった内容で、僕たちの思う「こうだったらいいな」が沢山あるものだったんですね。   その「こうだったらいいな」をさらに4人とスタッフと技術者の方とでやりとりしながら、このアプリは少しずつ作られていったものです。 その「こうだったらいいな」っていうのは、これはキャリアを積むにつれてどんどん肥大化していった思いで、今なお年々強くなり続けているんですが、ライブで出会う一人一人、僕らの音楽を受け止めてくれた一人一人の少しでもそばにいけないか、という事なんです。 ミュージシャンである以上、自分も、自分の音楽も、リスナーという存在にものすごく支えられていて。聴いてくれる人がいるって事は間違いなく救いで。 聴いてくれる人がいる、その結果として自分が音楽をやっているこの世界に自分の居場所があって。 その人の日常の中の暇つぶしみたいなほんの何分かでも「君は耳を貸してくれている」っていうこの事実が、僕の心の拠り所、居場所を作ってくれていて、その事実に何度も助けられているんです。 例えば今回のツアーでも2か所、今まで行った事のない街に行ってライブさせてもらって、この街ではデートや友達と遊ぶ時にこんなところで待ち合わせして、放課後はこんなところに寄り道してこんなゲーセンとかでみんなで溜まって、みたいなものは僕たちは当然何も知らないわけですよ。 あっちの通りに行ったらちょっと怖い先輩とかいるからあまり行かないようにしよう、みたいな事とかね。 そういうその街における特有の原体験、原風景のようなものを共有した事は、僕たちとライブに来てくれる人との間には無いはずなんです。 それなのに、地元が一緒なわけでもなく、長い時間や体験を共有したわけでもない間柄なのに、ライブで出会ってほんの数時間を共に過ごしただけなのに、すごく繋がっている感覚があって。 この感覚は自分勝手な、もしかしたら僕だけかもしらんけど、すごく深いところでものすごく大きなものを共有したような感覚があって。 みんなが見てくれているように僕も見るわけじゃないですか、ステージからみんなを。 そうすると、こっちの40代くらいの女性は3曲目でノリノリですごい笑顔で、こっちの20代くらいの男性は4曲目で涙流して鼻水垂らしながら聴いてくれてて、その時は最初の女性はそんなでもなくて(笑)、みたいな様子を目の当たりにするんですけど。 こっちの人にとって3曲目はよっぽど何かあったんだな、こっちの人にとって4曲目はよっぽど何かあったんだな、って思うわけですよ。 もっと言うと、同じ曲で2人泣いていても、こっちの人とこっちの人じゃ、なんでその曲で泣いてしまうのかっていう理由やストーリーはそれぞれ全く別のものがあるわけで。 その涙が嬉しいものか、悲しいものなのかさえ違うかもしれない。 何か大切な物語があって、こう涙や笑顔や鼻水やらになるわけじゃないですか。その理由となる背景や文脈を知りたくなるんです。

藤原基央(Vo, G)

人生のどこかのタイミングで、僕らの知らない街で僕らの音楽を受け取ってくれた人がいて、その人と僕との真ん中には音楽があるっていうたったそれだけなんです。 僕は僕で、たったそれだけの事にすごく助けられていて。 僕らが音を出したら君は聴いてくれる、耳を貸してくれる、っていう事実に何度も救われているんです。 スタジオでレコーディングしている時にも、マイクの向こうに待ってくれている人、受け止めてくれる耳が存在している事を想像するし、ライブだとそれを実際に目で見て、その感覚がより確かなものになって。 今目の前で泣いているこの人は、あの時あのスタジオで僕が想像した耳の持ち主なんだ、ようやく会えた、と。 こんなにもその一人一人と繋がれたような、大きな何かを共有できたような、そんな感覚って他にはないだろう、と。 でもその相手と共有できているものはそれ以外にはないわけで。

増川弘明(G)

で、こんなに深いところで繋がれたのに、1時間とか2時間とか時間が過ぎれば当然ライブは終わるわけで、あっという間にお別れで、僕はステージを降りるわけです。 ステージの上から見えたあの人やこの人やあいつやこいつから感じた事を抱えたまま、ホテルや家なりに帰るんです。 そうするといっぱい考えちゃうんです。 ついさっきまで目の前にいた人はそこでライブの時間を共に過ごした以外は何も知らない相手なんですよ。   その人はこの先の未来で、大丈夫な時は大丈夫だろうけど、ピンチの時もあるかもしれない。 疲れてる時、人に会えない時、布団にくるまってる時、引きこもってる時、メイクだけは出来たけどやっぱり家を出る一歩が踏み出せないとか、学校行こうと思うとお腹痛くなっちゃうとか、そもそも何もできないとか、そういうピンチがあるかもしれないですよね。   そんな時、これも勝手な話ですけど、どうにかして側にいられないかなという思いがあって。 なんでそうしたいかというとやっぱり、さっきも言いましたけど、救われてきているんですよ。 ほんと曲書いてる時とかにどうしようもない袋小路に迷い込むような時もあるし、自分が好きなものを他の人が好きになってくれるかどうかにはいつも自信ないし、そういう時に「この曲をいつか聴いてくれる君がいる」という事実が、灯台のように目印になる時があるし、足元を照らす松明のような味方になってくれる時もある。

升秀夫(Dr)

そうしてもらったから、自分にもそれが出来るならしたいんです。 照らしてくれたから照らしたいし、こっちだよって手を振ってくれたから振り返したいんですね。 居場所をくれた相手の居場所にだって、なれるんだったらなりたいんですね。 こういう思いは元々ずっとあって、27年の活動の中で日々強くなっていったものなんですけど、音楽をやる上で改めて重要なものだなと思うんです。 そういうところから「be there」という名前をこのアプリに付けました。 そんでそのままツアータイトルにもなっちゃいました。 ちょうどその頃、今年2月からのアリーナツアーのタイトルを誰も思いついていなくて、元々は昨年のライブハウスツアーからの流れで「Silver Jubileeアリーナ」みたいな感じに自動的になりそうだったんだけど、「25周年」っていう意味の「Silver Jubilee」を一体いつまで擦るんだろうねっていう話にも、皆の中でなっていて。 いいかげん27周年じゃんって誰かに言われる前に自分達で思ったというか。 でも誰も代案を思いつかないみたいな状態で。 じゃあこの「be there」が良いんじゃないか、となったわけです。 この言葉はアプリの名前としてだけじゃなく、そもそも自分たちの活動の根元にとても近い部分を表していると思うし、自分たちにとって今一番熱のこもっている言葉がツアータイトルになるなら、それはとても相応しい事だと思うので。

直井由文(B)

オーロラを見に行くより難しいこと

-ありがとうございます。では、その重要な概念であるbe thereとタイトルを付けた、このアプリに求めていることをもう少し教えていただけますか? 自分の音楽を聴いてくれた人や、それをきっかけにライブに来てくれた人に対する思いはここまで散々お話しさせてもらったとおりですが、なんだったらその一人一人と、ファミレスとかで朝まで語り明かしたいくらいなんですね。 でも物理的にも時間的にも不可能な事で。 これは今まで本当にどうする事もできなかった、どうしようもないモヤモヤを抱えていて。 それこそ、「オーロラ見に行く」とかより「ライブに来てくれた1万人の一人一人とファミレスで語り明かす」の方がよっぽど難しいじゃないですか。 オーロラは見に行く気になったら、ちょっと頑張ったら行けたんで。 これはどれだけそうしたくてどれだけ頑張っても、どうしようもない事というか。 そういうどうしようもないモヤモヤを27年悶々と抱えていたところに、アプリを作ってみないかって話がきて。 なんか今まで抱えてきたその思いが、形は違えど少しは叶うんじゃないかって思えたんですよね。 何人いようと、何万人いようと、望んでくれた人、選んでくれた人の一人一人の日常の近くにいさせてもらう事。 そうしたくてもそうできなかった事。 このアプリならそのどうしようもないモヤモヤが、ライブや今までの活動とは違う形で解消できるかもしれないって、そんな切実な思いとワクワクがあります。 こういうアプリがあれば、なんかこう、なんとかできるのかな、って。 僕は聴いてくれる人の存在に何度も助けられてきたんですね。 辛い時は心の拠り所になってくれたし、ミュージシャンとして居場所をもらったという気持ちもあります。 だから同じ役割を果たしたいんだと思います。 僕らの音楽が、大切に聴いてくれるその人の拠り所や居場所になれたら本当に嬉しいし、このアプリがそうなれたらいいなと思っているんです。

BUMP OF CHICKEN

-ありがとうございます。話が聞きたい、君と話がしたい。その思いが本当に伝わっ てきます。新曲、「窓の中から」にも「ここにいるよ」と居場所を感じさせるフレ ーズが出てきますね。 そうですね、「会う、話す」っていう行動はコロナ禍において制限されて、2年8ヶ月ぶりの有観客ライブを2022年の我々のごく私的な記念日である2/11に予定していたのですがそれも7月に延期になった上でようやくやる事ができて。 「会う、話す」って事も制限されて「有観客ライブ」なんていう特殊な言葉が生まれるような、そんな中で「窓の中から」っていう曲を書いた事もおそらく手伝って、考える事、思う事もありました。 曲を聴いてもらえる、ライブで出会える、ってことは、僕らはいつも一人一人、それぞれの世界をそれぞれの目的を持って旅をしていて、その旅の中でたまたま出会えたくらいの奇跡みたいなもんなんだな、と。 そんな奇跡みたいな繋がりの先にもそれぞれの世界はまだ続いているわけで。 その先の世界でも僕らのことを探してくれたんだったら、スマホっていう窓枠を通してそっちの世界から見つけてくれたんだったら、昼夜なんか関係ない締め切った部屋の中で、息の詰まりそうな空の下で、スマホだけなんとかタップしてくれたんだったら、そこにはどうにかして僕らは居たい。 そういう思いが積み重なって広がって凝縮されていって結果こういう、「誰も知らない銀河に浮かぶ小さな窓」というモチーフのテーマになるような概念に辿り着き、それをVERDYに伝えたら、いつもなんですが今回もすごく真剣に聴いてくれて、すごく大切にデザインに落とし込んでくれて、今回のツアーのいろんなアートワークとアプリのロゴのデザインが完成しました。 見る度にワクワクします、最高のデザインをしてくれました。

artwork: be there by VERDY

自分たちでコントロールできるメディアがあったらいいのになって思った

ごめんなさい、アプリに求める事ですよね。 これはやっぱりコロナ禍の時に思った事なんですけど、コロナ禍においての最初の一年くらい、どういうふうに活動していったらいいかわからなかったんですね。 ライブはもちろんの事、普通の制作作業はおろかミーティングにさえもそれなりに制限が及んで、もどかしかったですね。 もともと発信する手段が決して多くはなく、ただでさえフットワークの重めな僕らは、今まで応援してくれていたリスナーに、この制限の中にいる今、僕らの音楽や思う事を、どうやってどんなふうに伝えられるか、というところでだいぶ足踏みしたんです。   毎週やらせてもらっていたラジオもしばらくお休みしていて、様子を見ながら再開する運びになったけど、やっぱりラジオって人様の局にお世話になっているものだから、ラジオに限らずあらゆるメディアに言える事ですけど、やっぱりあの制限の中で皆さんがそれぞれの責任を持って運営されているもので。 僕らの番組だからといって僕らの都合で好きな時に好きなようにやって良いものではないし。 全部のメディアに対してそうですよね。 僕らが何かしたいとしても、僕らが何か発表したいものがあったとしても、完全には責任持ってコントロールできない。 こんな時自分でコントロールできるメディアを持っている人たちは、もっとそこは強かったろうな、もっと積極的にメッセージを送れたろうなと思いましたね。 だから何かを発表するにしてももうちょっとオフィシャリティが高くて、もうちょっと近くに感じられて、そして自分達でコントロールできて、「僕たち四人からあなたに対するメッセージです」っていう、自分達だけの特別な発表の場があったら良かったな、と。 あとは27年の活動の歴史の中で、時代が進むにつれて、コンテンツ自体は自分達の手元にあっても、そのコンテンツのプラットフォームごと無くなったりとか、せっかく応援してくれている人がいるのに申し訳ないな、もったいないな、どうにかして残せないかな、と思うような事もあったんですね。 当時すでに自分達にこういうアプリがあったら、発表や発信の場としても使えただろうし、コンテンツを残していく事も可能だなと思いました。 今話した事はパッと思いついたところで、他にもいろんな人からいろんなアイデアが出てますけど、その中のどれくらいが実現されるのかはちょっとまだわかりません。 でもとりあえずワクワクしてます。

BUMP OF CHICKEN

ライブっていうのは、僕らが音を出したら君は受け止めてくれる、って事を確認できる行動で、ライブ自体がその証なんですね。

やっぱり僕らは聴いてくれた人に「会う」ためにライブをやってるんだなっていう事を昨年と今回のツアーで改めて思いました。 なのでライブはしっかり続けていきたいですね。 受け止めてくれた事を「会う」って事で確認してる、会えたという事自体にシンプルだけど大事な意味があるんです。 もちろん全力でいいパフォーマンスが出来るように努めるし、そのために準備もするしフィジカルだって整えるけど、一番大切な大前提は君がそこにいるって事で。 ライブっていうのは、僕らが音を出したら君は受け止めてくれる、って事を確認できる行動で、ライブ自体がその証なんですね。 音楽を作って、送って、届いた事を確かめにいく、ということの繰り返しを今までどおり、大切に続けていきたいですね。 ツアーはそろそろ終わってしまいますが、また会えることを楽しみにしながら、これからも音楽やっていこうと思います。

藤原基央(Vo, G)

BUMP OF CHICKEN との出会いやストーリーについて

このアプリでは、インタビュー内で藤原が言及していた「そこに至るまでの涙の背景、文脈を知りたい」という気持ちから、BUMP OF CHICKENとの出会いやそこからの文脈に関する皆様からのお便りをお待ちしています。

メンバーへの質問やインタビュー内容の希望リクエスト

また、メンバーへの質問やインタビュー内容の希望もお待ちしております。 全ての質問やリクエストにお応えはできませんが、参考にさせていただき、メンバーとも共有させていただきます。公式サイトやSNS、アプリに掲載する予定はありませんが、こちら側が掲載を希望した場合は掲載許可のご連絡をさせていただきます。

ショート動画の応募について

BUMP OF CHICKEN の楽曲を使って、60秒以内の動画を作成して、応募してください。 こちらも、公式サイトやSNS、アプリに掲載する予定はありませんが、こちら側が掲載を希望した場合は掲載許可のご連絡をさせていただきます。