【詳細】

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2024年2月現在44歳の僕ですが、20代前半あたりの若かりしある日ある時、ひょんなきっかけから自分の生まれた日(1979年4月12日)が木曜日だった事を知りました。 自分たちのアルバムに思い付きでjupiterと名付けてしまうくらい木星が大好きだった僕は「木星と木曜日」というささやかな一致が地味に嬉しくて、それをきっかけに「自分は木曜日に生まれた」というなかなかどうでもいい情報が覚えようとせずとも記憶に残り、それから毎年誕生日を迎える度に「今年の誕生日は何曜日なんだろう」というのをなんとなく気にしながら過ごしていました。 そこから数年、毎年迎える誕生日、そのどれもが木曜日ではありませんでした。 今年も違うんだな、なかなかないもんだな、くらいにしか思っておりませんでしたが、28歳の誕生日(2007年4月12日)はついに木曜日でした。 その事に数日前に気付いた僕は、これがまた謎に結構嬉しくて、最初は「やった、生まれた日以来初めて木曜日の誕生日が来るぞ」とテンション上がったのですが、誕生日の前夜に、さらにもうひとつ気付きます。 自分が木曜日に生まれたと知る以前は自分の誕生日が毎年何曜日かなんて全く気にしていなかったのです。 よくよく考えたらそれよりもっと前に誕生日が木曜日だった事あったんじゃね?俺今こんなテンション上がっているけど「生まれた日以来初めて」なんて事はないんじゃね?と。 もともとなんとなくしか気にしていない事だったので、この当然の事実に対する意識がスッポリと抜けていたわけです。 というわけで気になっちゃった僕は、生まれてからその日に至るまでの自分の誕生日が毎年何曜日だったのかを調べ始めました。 その結果、誕生日が木曜日だった事、全然普通に何回かありました。全然普通に何回かあるのね。 まずは僕0歳の誕生日1979/4/12(木) それから5年後の5歳の誕生日1984/4/12(木) その6年後の11歳の誕生日1990/4/12(木) その11年後の22歳の誕生日2001/4/12(木) そしてそこから6年後の28歳の誕生日2007/4/12(木) こんな感じでした。 生まれた日から今年に至るまで生まれた日含めて全部で5回あって、それぞれの間隔は5年後、6年後、11年後、6年後、っていう。 調べた感想としては、まだこの時点では「ふーん」程度のもので。この5、6、11、6、っていう数字の並びになんか見出せそうな、そんな事もなさそうな。期待し過ぎちゃったかしら、くらいの。 凝り性なのでこの先はどうなんだろうと気になり、一応28歳の後、もう少し未来まで調べてみちゃいました。 そしたら、 5年後の33歳の誕生日2012/4/12(木) その6年後の39歳の誕生日2018/4/12(木) その11年後の50歳の誕生日2029/4/12(木) その6年後の56歳の誕生日2035/4/12(木) ご覧の通り、0歳から28歳までの時と同じく、木曜日の誕生日ごとの間の年数が5年後、6年後、11年後、6年後、となっている事がわかりました。 当然さらに引き続きこの先も調べてみたところ、やはり間の年数が「5、6、11、6」という順番で未来永劫延々と繰り返されていきました。 「5、6、11、6、5、6、11、6、5、6…」といった具合に。 「5、6、11、6」全部足すと28です。 どうやら「28年で一巡り」の周期があるようです。 他の人、家族や友達やスタッフさんなど身の回りの人はどうなんだろうと、生年月日がわかっている人の範囲内で、生まれた日と28歳の誕生日の曜日を調べてみたところ、この「28年で一巡り」の周期は誰の誕生日だろうと全員に当てはまりました。 もちろん自分以外のバンドのメンバーについても調べました。全員1979年生まれで同い年の僕らは、全員2007年の28歳の誕生日が生まれた日と同じ曜日になります。 28年で一巡りの周期の存在に、僕は自分が28歳になるタイミングで気付いたわけです。 「今自分は自分の人生における、とある一つの周期の“一周目の終わり”と“二周目の始まり”の節目の瞬間にいるんだ」と気付いたわけです。 そしてこのタイミングは僕一人だけのものではなく、幼い頃から長い時を共に歩んできていつしか図らずも運命共同体になっていたバンドのメンバー四人みんなが、同じ年、この2007年のそれぞれの28歳の誕生日にその時を迎え、体験するわけです。 この周期の存在に気付いたのがそのタイミングだった事も相まって、形容し難い興奮と感動と、よく知っている焦りが沸き起こりました。 この興奮と感動は形容し難いのです。 「生まれた日と曜日が同じになる事がどうだというのか」 「それが周期だと分かって、その終わりと始まりの境目を自覚して、それがどうだというのか」 当時も今も説明できません。人によっては「ふーん」「へー」程度の話かもしれません。 よく知っている焦りというのは「よくわかんないけど早くメンバー三人に伝えなければ」というやつです。 ふたつ補足。 ひとつめ、 その発見のわりとすぐ直後、28年周期とかなんとか検索してみたら、これは「太陽章」というやつなんだという事がわかりました。どうしようひょっとしたら自分は世紀の大発見をしてしまったんじゃなかろうかという僕の勘違いは一瞬で真実に制圧されました。 ふたつめ、 「28年で一巡り」の周期は誰にでも当てはまりますが、その人の生まれた年によってこの周期が「5、6、11、6、5、6、11、6、5、6…」の数列のどこから始まるのかパターンが違います。 1979年生まれの僕は「5、6、11、6」の順でしたが、「6、11、6、5」の人もいるし、「11、6、5、6」の人もいる、という事です。これはさらにもう少し後、後述のアルバムのプロモーションをしている時に有識者の方から教えて頂きました。 そして僕はそのプロモーションで28年周期について沢山の媒体で説明させて頂く事になるのですが、自分の誕生日を例に出して何回も説明しているうちに数字の羅列に翻弄され、僕の場合は「5、6、11、6」だったのに、間違えて「6、5、6、11」と説明しちゃったりした時もありました。ごめんよ。「28年で一巡り」の大枠と概要は合っていたはずなので何卒ご容赦ください。 さて、それから間もなくの話になりますが、もともと誕生日に誕生会をやってくれるとの事だったので、升くん、直井くん、増川くんが予定通り僕んちにきてくれました。 「おめでとう」「ありがとう、ところでさ」みたいな感じで始まり、そこからは延々と昨夜からの僕の発見について興奮と感動と焦りそのまま、余す所なく彼らに説明しました。 「俺たちは四人全員、この2007年それぞれが28歳になる瞬間に、それぞれが自分だけのこの周期の一周目を終えて、二周目が始まるんだ」 かくかくしかじかうんぬんかんぬん僕のまとまらない話を真剣に聞いてくれた彼らからは僕と同等か、もしかしたら僕以上の熱量を感じました。 人によっては「ふーん」「へー」程度の話かもしれませんが、升くん、直井くん、増川くんは果たして見事に僕と同じでした。 「やべえ!」「あつい!」「俺らあつい!」 彼らもまた、僕に湧き上がったのと同じ、形容し難い興奮と感動を隠そうともせず、とびきりの笑顔を見せてくれた事を覚えています。 BUMP OF CHICKENはそういうバンドです。 こうして僕らは28年周期という概念の虜になり、この四人でバンドをやっているという事実がそれまでよりももっと輝き、もっと誇らしく思えました。 これまたなかなか説明できない誇らしさです。 そしてその頃僕たちは5枚目のアルバムを作っている途中で、僕の誕生日の後も制作作業はしばらく続き、そのうちスタッフの一人が「ある程度の曲数も出揃ってきたしそろそろタイトル決めないか?」と言い出しました。 僕らは、四人が同じタイミングで「28年周期」の節目を迎える、という事の感動と興奮が冷めやらぬまま作業を続けていたので、「今年作っているアルバムのタイトルっていったらそれしかないだろう」と、めちゃくちゃその概念に引っ張られました。 特定の日の曜日がその28年後の同じ日に同じ曜日になる事、これを、惑星が恒星の周りを周期的に回る事、つまり公転に準えて、公転周期そのままの意味で「orbital period」と名付けました。 タイトルが決まった日はそれはそれは大盛り上がりだった事でしょう、覚えていないけど。 CDには歌詞カードが付き物ですが、それもまたその「28年で一巡り」の概念に引っ張られて、いろいろ浮かんでくるイメージを元に簡単な絵本のような物語形式のものを作り始めたのですが、出来上がってみたら歌詞カードなのに88ページという意味不明な分厚さになり、歌詞カードなのに「星の鳥」という独立したタイトルまで付いてしまいました。 あまりにも大変過ぎたのであんな作業はもう二度とやりたくないけど、この「星の鳥」のお話、それから王様をはじめとした登場キャラクターに対する愛情溢れるコメントを今でも頂くので、やってよかったです。 これに限らずの話ですが、リスナーからのこういう声は我々にとって大変重要な栄養です。 僕らから生まれてきたものを大切にしてくれて、こんな風にやってよかったと思わせてくれる。本当にありがとう。 話戻そうね。 そのアルバム「orbital period」を引っ提げてのツアーをやろうという事になりますよね。当然タイトルも内容も決めなきゃです。 これらもまた「28年周期」に引っ張られて、「ホームシック衛星」に決まりました。 四人がそれぞれいい感じだと思う単語をいくつかずつ出し合って、それを四人であーだこーだ話し合いながらいい感じに組み合わせていく、という作り方でしたが、いい感じに組み合わさっちゃった結果です。 要するに「ホーム」と「シック」と「衛星」があったわけですね。 16年前当時のお話はこの辺りまでです。 長かったよね、ごめんなさい。 でも「形容し難い興奮と感動」をなんとか形容するために必要な長さだったんだと思ってご容赦頂きたい。 ここまで読んでくれてありがとう。